Mar 19, 2021
林夏子「はてしないお茶物語」vol.16 800年の歴史ある茶畑を残したい 足久保ティーワークスの挑戦
古くから茶の生産が行われてきた足久保
静岡市街地を抜け、安部川を上流に向かって10㎞ほど北上したところに、茶産地・足久保(あしくぼ)があります。足久保は、鎌倉時代に臨済宗の高僧・聖一国師(しょういちこくし)が中国から持ち帰った茶の種を植えたとの伝承が残る産地です。
(静岡県の茶産地)
足久保は、山間(やまあい)を安部川の支流・足久保川が流れる風光明媚な地域です。山に囲まれ、日照時間が短く、昼夜の寒暖差の激しい、朝霧が立ちやすい地形。朝霧が茶畑の上に天然の覆いをつくり、香りがよく味も濃いお茶に育ちます。聖一国師は、この地形が宋の茶産地・径山(きんさん)とよく似ていることから、1241年に生家のある栃沢(とちざわ)と、栃沢と山ひとつ隔てた足久保に茶の種をまいたと伝わっています。
(足久保に点在する沢や水場から朝霧が上り、美味しいお茶を育む)
江戸時代には、足久保茶は、京都の栂尾茶や宇治茶とならんで、江戸城に献上されました。かの松尾芭蕉が駿河(現在の静岡県)を訪れ、「駿河路や花橘も茶の匂ひ」と詠んだのが1694年5月のこと。足久保川の清流沿いに点在する茶畑は、芭蕉がみた駿河の茶畑の面影を、いまに残しています。
(新茶を迎える足久保の茶畑(足久保ティーワークス提供))
足久保のドライブスポット ティーワークスカフェ
足久保の玄関口にドライブ客が訪れるカフェがあります。製茶工場に併設されたテイクアウト専門のカフェ「ティーワークスカフェ」です。
運営する足久保ティーワークスの工場長・加藤貴彦さんと仕上げ販売を担当する佐藤元(はじめ)さん、販売を担当する石川茜さんにお話を伺いました。
足久保ティーワークスは、共同製茶工場です。24年前、足久保の茶農家約50軒が集まり、茶業協同組合として茶工場を作りました。当初は60名を超える茶農家が所属していましたが、2021年現在、正規の組合員は7名。そのうち、4名は30代・40代の若手茶農家です。加藤さんも佐藤さんも40代で、創業メンバーの孫世代。
「若い人たちにももっとお店に足を運んでほしい」
そんな思いで、2017年から加藤さんが中心になり、足久保ティーワークスのイメージチェンジに取り組んできました。
(カフェ人気No.1の煎茶フローズン(足久保ティーワークス提供))
まず、取り組んだのが、ロゴデザインの変更です。足久保在住のデザイナーさんにお願いし、スタイリッシュなロゴになりました。同時に、お茶の小売りスペース「山茶寛(やまちゃかん)」を改装し、テイクアウト専門の「ティーワークスカフェ」を増設しました。SNSによる発信などでカフェの存在が知られるようになり、足久保のドライブスポットになっています。
800年の歴史ある茶畑を残したい
地域の茶畑は、組合員が共同で管理します。加藤さんや佐藤さんら若手農家は、自分の畑の管理・摘採だけでなく、摘採した生葉を製茶工場で荒茶に仕上げます。メンバーはみな兼業で、加藤さんも茶業のほか、林業を営んでいます。
加藤さん「大変ではありますが、お茶の仕事が好き。飲んでくれた方からの『美味しい』『ほかのお茶は飲めなくなっちゃった』って声が、嬉しい。」
佐藤さん「足久保には(聖一国師がお茶の種をまいてから)800年の歴史があるんです。この歴史を絶やしたくない。意地とプライドがある。」
仲間と集まると、お茶の話がつきません。一方で、山のお茶の苦悩もあります。
加藤さん「山のお茶は伸びるのが遅い。いいお茶を作っていても、どうしても茶市場の相場で値段が決まってしまう。市場で評価されない現状がある。それで辞めていく人もいる。そういうお茶を評価してもらえる仕組みがあれば、山のお茶も作り続けることができるのだが。」
新茶は、早ければ早いほど茶市場で高値がつくため、高く売りたければ新茶を1日でも早く出荷しなくてはなりません。山のお茶は伸びるのが遅く、早く出荷することができません。そのため、市場で評価されにくい現状があります。
佐藤さん「山のお茶の作業は、平地の作業の3倍くらい大変です。でも、いいお茶ができます。そういう茶畑が辞めていってしまっているのは、悔しいというか残念というか……。」
(急な傾斜の茶畑(足久保ティーワークス提供))
急な傾斜の茶畑は大型機械による自動化ができず、人の手が必要になります。加藤さんや佐藤さんら若手農家が、高齢や担い手不足で管理できない畑のサポートもしていますが、耕作を諦めざるを得ない茶畑もでてきています。山のお茶にしかない滋味があるにもかかわらず、それが評価されにくく、佐藤さんは悔しさをにじませます。
そんななか、足久保ティーワークスの活動を知り、繁忙期に手伝いにくる若者がいます。また、県外から「お茶を一から学びたい」と20代の若者が就農する予定もあります。「800年の歴史ある茶畑を残したい」加藤さんらの思いが、波紋を呼んでいます。
2021年からオーナー制度を導入
(足久保ティーワークスオーナー制度(足久保ティーワークス提供))
2021年3月、足久保ティーワークスは『茶畑オーナー』の募集を開始しました。足久保ティーワークスのお茶のファンを作り、足久保の茶畑を維持していくための新しい取り組みです。オーナーから出資していただいたお金を人件費や肥料、農薬などの農園の維持費に充てていきます。組合員同士で会合を重ね、「この地でお茶を作り続けたい」思いを形にしました。
計画当初は、「初年度は20〜30人申し込んでくれたら良いかなぁ」と控えめな目標を立てていましたが、募集を開始すると、北は北海道、南は広島からの問い合わせがあり、当初の目標は初日で越えました。
あかねさん「日ごろ、『静岡茶発祥の地』とうたってはいるものの、静岡でも認知度が決して高いわけではないこの足久保のことを、こんなにたくさんの方が気にかけて問い合わせ・お申し込みいただいていることに、足久保の人たちは本当に驚き、ありがたく思い、喜んでいます」
「昔静岡に住んでいたから」「母が住んでいて」といった、静岡にゆかりのある方や「コロナで気軽に行けないからこそ、行けるようになったときに足を運びたい」「コロナで行けないからこそ、お茶を通して繋がりたい」といったファンの方から支援が集まりました。
「800年の歴史ある茶畑を残したい」という思いで新しい挑戦を続け、仲間やファンを増やす足久保ティーワークス。今後も目が離せません。
足久保ティーワークスオーナー制度
ご興味ある方は、足久保ティーワークス茶畑オーナー募集をご覧ください。※2021年度の申し込みは3月末までです。ご注意ください。
足久保ティーワークスのおすすめ 浅蒸し茶 薫風
はやし「足久保ティーワークスのおすすめのお茶を教えてください。」
あかねさん「コクがあるのがティーワークスのお茶の特徴です。口に含んだときに何層にも味を感じられます。「薫風」は、苦み渋味もあり、香りもあって、コクもある、味のバランスのとれたお茶です。足久保ティーワークスのお茶がはじめての方にはまずはこちらをお勧めします!」
浅蒸し茶 薫風(リーフ100g入)1,080円(税込)
品 種:やぶきた
製 法:浅蒸し
茶産地:静岡県静岡市足久保
栽培法:慣行栽培
摘 採:機械摘み
製 茶:足久保ティーワークス
仕上げ:佐藤元
特 徴:バランスの良いお茶
足久保ティーワークスの看板商品の薫風は、青々とした新緑の柳のような青みの強い黄緑色の水色(すいしょく)が特徴です。旨み・苦味のバランスがとてもよく、足久保茶特有のお茶の強さを感じられます。ギフトとしてはもちろんのこと、ご自宅用のおやつ時間のお茶としてもおすすめできます。
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足久保ティーワークス茶農業協同組合
[住所] 〒421-2124 静岡県静岡市葵区足久保口組2082-2
[TEL] 054-296-6700 [FAX] 054-296-6702
[営業時間] 9:30~16:00
[定休日] 月・木曜(祝日の場合は翌日定休)、夏期・冬期休暇
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著者:林夏子(はやし なつこ)
お茶の文化や歴史、風俗を発信し、お茶愛好家の皆さんとの交流をはかることを目的に『はてしないお茶物語』https://hateshinai-ocha-monogatari.comを運営。管理人:林夏子(フリーライター/日本茶インストラクター)